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アイルランドでサイバーセキュリティ人材輩出が盛んな理由

サイバーセキュリティサービスへの需要の高まりは、スキルニーズの増加を生み、この分野でアイルランドは主導的な役割を果たしています。現在、世界のサイバーセキュリティ企業上位10社中6社がアイルランドに拠点を置き、セクター全体の雇用数は全国で7000人に上ります。

アイルランドで事業を展開するサイバーセキュリティ企業には、Check Point、CrowdStrike、Eset、Fortinet、Mandiant、McAfee、Proofpoint、Symantec(現在はBroadcomの傘下)、Trellix、Trend Microなど馴染みのある企業のほか、AWS、Microsoft、Hewlett Packard Enterpriseなど、セキュリティ部門をアイルランドに置くテクノロジー系大企業もあります。

2024年9月には、Proofpoint社が新たな国際ハブにコークを選定しました。2026年までに250人以上の雇用を創出し、その後も積極的な採用と継続的な投資を計画しています。同社のCPO(最高人事責任者)であるKim Sullivan氏は、「アイルランドの盤石なテクノロジーエコシステムが抱えるサイバーセキュリティの幅広い人材基盤を活用できることを楽しみにしています」と述べています。

アイルランドで最も長い歴史を持つサイバーセキュリティ多国籍企業の一社にTrend Microがあります。Robert McArdle氏は2007年に同社のコークオフィスに初めて着任し、現在は先進的な研究チームのディレクターを務めています。また、2022年に10億ドル以上の評価額で「ユニコーン」企業となったカナダのeSentireは、2015年からコークで操業しています。

同社コークセンターのサイトリーダー兼シニアディレクターであるCiaran Luttrell氏は、サイバーセキュリティに特化した第三期教育のコースが、必要なスキルをはぐくんでいると述べています。「eSentireは強力なパートナーシップを複数結んでいまして、とくに『パートナーシップ』ということを強調したいと思います。その好例は、MTU(ミュンスター工科大学)との提携で、この大学はアイルランドのサイバーセキュリティ分野では、間違いなくトップクラスのプログラムを提供しています」

アイルランドにおける活動は、サイバーセキュリティ専業企業に留まらず、場所もコークやダブリンといった都市に限りません。金融サービス企業がアイルランドにサイバーセキュリティチームを置くという傾向が高まっています。2011年には、SMBC(三井住友銀行)のIT専門子会社であるJRI America社がケリー県トラリーに設立され、技術チームを250人超にまで着実に増やし、そのうち50人がセキュリティ部門に従事しています。

JRI Americaは、採用に関して、サイバーセキュリティの修士新卒者に併せて、ソフトウェア開発などより一般的な技術分野の学位取得者も採用し、業務内で業界トップの資格を習得してスキルアップを図れるようにする組み合わせアプローチをとっています。

別の金融サービス企業、State Streetは長年、アイルランドにサイバーセキュリティ専従職員を配置しています。この職務の拡大、多様化、完全社内化にともない、近年、同社は多額の追加投資を行いました。現在、キルケニーの拠点には150人近い専門職が従事し、その数は今後さらに増える予定です。

このキルケニーのチームは、アジア太平洋、EMEA、アメリカ大陸の各タイムゾーンにある全事業部門にノンストップのサービスを提供しています。 State Streetのアイルランド支社長であるTerri Dempsey氏は、南東部のおける意欲あふれる優秀な技術人材の存在が、キルケニーを拠点とする決定要因となったと述べています。

サイバーセキュリティ部門以外の企業による大規模投資が可能になったのは、学部や大学院課程が周到に整備されたためです。MTUは、サイバーセキュリティのスキルが求められる時代に向け、その基盤作りに重要な役割を果たしました。MTUは、その活動支援のために多額の資金援助を受け、HEA(高等教育庁)によるサイバースキル構想(Cyber Skills initiative)への910万ユーロ、EI(アイルランド政府商務庁) のイノベーター構想(Innovators Initiative)によるCyber Innovateへの700万ユーロも深刻なサイバーセキュリティ専門家不足への対処を意図したものでした。

通常、教育機関は学生の獲得では競うが、研究レベルでは協力し合う、とMTUのサイバーセキュリティ学科長であるDonna O’Shea博士は語ります。それぞれが専門知識と深い技術的洞察力を提供し合います。協力はアイルランド国内にとどまらず、MTUは、米国のバージニア工科大学やロチェスター工科大学ともパートナーシップを組んで国際的なベストプラクティスを共有しています。

アイルランドは、民間および公共部門にサイバーセキュリティのスキルを提供するだけでなく、ダブリン大学サイバー犯罪捜査センターは長年にわたり、デジタル犯罪の捜査手法について欧州全土の警察に研修を提供してきました。

Cyber Irelandは、国家規模のクラスターとしてアイルランドのサイバーセキュリティエコシステムをつないでいます。部門の成長の支援と、スキル開発、産官連携協力をはじめとする主要課題への取り組みを目的として、2019年に設立されました。

参加企業・団体は、アイルランドの中小企業やスタートアップ企業、業界で直接業務に従事する、もしくはサイバーセキュリティサービスを提供する多国籍企業、大学や教育研修プロバイダー、政府機関や非営利団体など多岐にわたります。

他のテクノロジー分野と同様、サイバーセキュリティの動きは止めることはありません。MTUのようなセンターは人工知能への対応も始めており、刻々と変化する状況に対して必要なスキルをどう適応させるかについて、業界パートナーとの協議をすすめながら、理解に努めています。唯一、不変なのは、アイルランドの準備に抜かりはないということです。