アイルランドでは、多くの多国籍企業がサステナビリティ事業を推進しており、非常に積極的な企業の中には、2030年までにネットゼロ達成を計画しているところもあります。サステナビリティは、アイルランドに加えEU全体のすべての投資家と企業にとって政策上不可欠かつ取締役会レベルの優先事項です。すでに、アイルランド政府産業開発庁の最大顧客100社の7割はすでにネットゼロの誓約をしており、上位40社中15社がサステナビリティでA評価を受けています。
この複数年計画は、設備投資予算を企業目標と2030年の達成目標に合わせるという現実的な取り組みです。毎年、競争力強化とともにネットゼロに一歩近づくための新たな投資を行うことになります。例えば、敷地内で消費する化石燃料を電気に置き換えて効率化を図れば、それだけで多くの企業がアイルランドはもとよりグローバルでのネットゼロスコープ1目標を達成することも十分できます。
「ネットゼロへの取り組みを進める企業は、運用コストの削減、持続可能な製品やサービスへの顧客需要増加など、すでに大きなメリットを享受しています。アイルランドで先駆的行動を起こした企業は、すべての部門でサステナビリティの参考事例となっています」とO’Hora氏は述べています。
「持続可能性は私個人の、そして当社の重要課題です」と、Zimmer Biomet社Manufacturing IrelandディレクターであるTom O’Carroll氏は語ります。同社は筋骨格系ヘルスケアを専門とする米国企業で、シャノンとゴールウェイの2拠点に1100人の従業員を擁し、膝、股関節、肩の人工関節を製造しています。
Zimmer Biomet社のアイルランド事業所では、両拠点の屋根に2400枚のパネルを設置し、1MWの太陽光発電パネルにより、年間消費電力の8%近くを発電しています。この10年間、両施設では廃棄物を埋め立て処理しない方針を実行してきました。デジタルツールへの投資により、ペーパーレスとなった製造現場では1日1万8355枚、月間50万枚以上、年間660万枚以上の紙を削減できます。これは樹木2000本以上に相当し、従来多くの書類に依存していた製造環境のデジタル化への大きな一歩です。 Zimmer社事業所の省エネ事業には、拠点間移動のための電気自動車の使用や相乗り通勤の推進も含まれています。
グローバル医療技術企業であるBecton Dickinson(BD)社は、2019年を基準年として2030年までにスコープ1および2の温室効果ガス排出量を46%削減するという世界的取り組みを掲げています。アイルランドのエニスコーシーにある同社事業所では、効率化、電化、脱炭素化への投資により二酸化炭素排出量削減に向けた複数年にわたる気候行動計画を策定しました。
製薬大手のMSD社は、全事業所で2025年までにカーボンニュートラル実現を計画しています。電力供給会社ESBとの20年間のパートナーシップの一環として、MSDはティペラリー県バリーダインの敷地に地上設置型太陽光発電設備(7.3MW)を建設しました。2022年9月には、当時アイルランド最大の自家発電型太陽光発電プロジェクトを開設しました。
Johnson & Johnson社は、アイルランド国内の4つの製造拠点で使用する電力の100%を陸上風力発電で賄っています。2021年には、ケリー県のKilgarvan Wind Farmとクレア県のBootiagh Wind Farm 1からの電力需給を目的に世界有数の再生可能エネルギー供給企業ØrstedとPPA(電力購入契約)を締結しました。8年間の契約期間中に、1000ギガワット時を超える再生可能エネルギーが発電される予定です。
風力エネルギーは、アステラス製薬のケリー県の拠点で再生可能エネルギー比率を64%に引き上げることにも貢献しています。日系のアステラス製薬は、太陽光発電、太陽熱パネルに加え、工場から半径50km以内の林業の廃木材を活用した木質チップを原料とするバイオマスも利用しています。
Eli Lilly社は、Enerpower社との共同投資で太陽光発電を積極的に進め、コーク県キンセールにある敷地の大部分を賄う500万ユーロの太陽光発電所の設計、建設、保守を任せています。2021年7月の正式開設当時、12600枚のパネルを備えた5.6MWの太陽光発電所は、敷地面積16エーカーと、アイルランド共和国では単一施設として最大規模でした。
Boston Scientific社は、1億ユーロでゴールウェイ県バリーブリット事業所を拡張しました。2022年4月に発表されたこの施設には、4万平方フィート超の医療機器製造スペースがあり、再生可能エネルギーを動力としています。
EUのCSRD(企業サステナビリティ報告指令)導入により、すべてのクライアント企業は、温室効果ガス排出量、水利用、廃棄物生産、循環経済、汚染、生物多様性という6つの環境分野において各企業が及ぼす可能性のある好影響と悪影響を測定することになります。
アイルランド政府産業開発庁には専従の学際的なサステナビリティチームがあり、クライアント企業と協力しながら課題を克服し、迅速に対応し、重要な影響を及ぼす投資を支援しています。「グリーンキャピタル」、「グリーンコンサルティング」、「研究」、「人材開発」の各分野への資金援助に裏付けられた戦略により、アイルランド政府産業開発庁はこの2年で約3億ユーロに上るクライアント企業のサステナビリティ投資を支援してきました。 アイルランド政府産業開発庁のグリーンエンジニアリング・グリーンエコノミーチームは、再生可能エネルギー、グリーン製造、自動車、航空など重要なサステナビリティ部門におけるクライアント企業の新技術力の構築と成長の支援に注力しています。
企業間の関心は高まっています。PwCの調査によると、アイルランドのCEOの92%が効率を上げるエネルギー変換で大きな進捗を遂げています。アイルランド政府産業開発庁の支援により、企業は脱炭素化に向けた計画を立て、まず現在のベースラインを把握し、それを基にネットゼロへの道筋を描くことから始めることができます。